保育士は「年収が低い」という聞かれたり、イメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。保育士としてすでに働かれている方も、これから保育士を目指している方にとっても「お給料」は気になるポイントですよね。
実際に保育士はどれぐらいのお給料をもらうことができるのかを、あらゆる角度別にご紹介してまいります。
保育士の給料の平均は?
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(令和3年)」によると、保育士の平均年収は約382.2万円となっています。保育士の一般労働者(正社員など)と短時間労働者(アルバイトなど)のそれぞれの平均給与額は下記の表の通りです。
※平均給与額は社会保険料や所得税を控除する前の金額です。
保育士(男女) 平均給与額 年間賞与など 全国保育士平均年収 一般労働者 256,500円 744,000円 3,822,000円 短時間労働者 191,840円 89,000円 2,391,080円
出典:賃金構造基本統計調査(令和3年)
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、日本の平均年収は433万円と発表されているため、保育士の年収は日本全体の平均よりは下回っていることが分かります。そのため保育士は年収が低いというイメージは、まさにイメージ通りであるということが分かります。
なぜ保育士のお給料が低いのかというと、保育園を運営するにあたって国が定めた公定価格という費用が存在していることが大きな理由の一つです。これは子ども1人を単価として子どもの区分や定員数、年齢や施設の所在などの地域区分によって、各保育園の事業費・管理費・人件費などがどの程度必要なのかを定めています。そのため、民間の私立保育園であっても政府から支給される公定価格で運営されています。
事業費や管理費などの必要経費を引くと人件費にかけられる金額はわずかしかなく、給与に反映しにくいのが現状です。
しかし、ここで見ていただきたいのが直近の保育士平均給与額の推移についてです。平成29年から令和3年にかけて5年分のデータを元に確認していきましょう。
保育士(男女) 平均給与額 年間賞与など 全国保育士平均年収 平成29年度 229,900円 662,500円 3,421,300円 平成30年度 239,300円 707,700円 3,579,300円 令和元年度 244,500円 700,600円 3,634,600円 令和2年度 249,800円 747,400円 3,745,000円 令和3年度 256,500円 744,000円 3,822,000円
出典:賃金構造基本統計調査(令和3年)
5年間で保育士の平均年収が40万円ほど上がっています。待機児童を社会的問題として国として解決に向けて動くようになり、保育士の待遇や改善が見直されるようになったことからと考えられます。日本の平均年収と比べると低いとされていますが、社会の問題として改善されているからこそ、今後の給与額も期待できるのではないでしょうか。
男女別の保育士の平均給料
あまり知られていませんが、保育士は男女の性別によってお給料の差が約40万円ほど生まれていることが分かります。
平均給与額 年間賞与など 平均年収 全国労働者数 男性保育士 275,000円 784,800円 4,084,800円 11,400人 女性保育士 249,100円 784,800円 3,731,100円 230,690人
出典:賃金構造基本統計調査(令和3年)
ただこれは男女差別が理由、などというわけではありません。男性保育士の平均年収が高い理由は男性保育士の全国での労働者数が少ないためです。特に役職がついていない、若い男性保育士の人数が少なく、経営に携わっていたり肩書きがついている男性保育士の割合の方が高いために平均年収を押し上げている結果です。
保育士業界はまだまだ女性社会と言われている業界であることがこの全国労働者人数と、平均年収から確認することができますね。
都道府県別の保育士の平均年収
都道府県別に保育士の平均年収をご紹介いたします。全国一律というわけではないので自分が住んでいる、もしくは働いている都道府県がどれぐらいの平均年収なのか、ぜひチェックしてみてください。
都道府県 都道府県別 保育士平均年収 北海道 3,610,000円 青森県 3,772,000円 岩手県 3,904,000円 宮城県 3,294,000円 秋田県 3,477,000円 山形県 3,656,000円 福島県 3,158,000円 茨城県 3,512,000円 栃木県 3,454,000円 群馬県 3,893,000円 埼玉県 3,685,000円 千葉県 4,152,000円 東京都 4,482,000円 神奈川県 3,913,000円 新潟県 4,376,000円 富山県 3,553,000円 石川県 3,751,000円 福井県 3,366,000円 山梨県 3,438,000円 長野県 3,937,000円 岐阜県 3,531,000円 静岡県 3,460,000円 愛知県 4,282,000円 三重県 3,214,000円 滋賀県 3,717,000円 京都府 4,081,000円 大阪府 3,878,000円 兵庫県 3,707,000円 奈良県 4,335,000円 和歌山県 3,466,000円 鳥取県 3,211,000円 島根県 3,075,000円 岡山県 3,518,000円 広島県 4,159,000円 山口県 3,667,000円 徳島県 3,454,000円 香川県 3,365,000円 愛媛県 3,289,000円 高知県 3,599,000円 福岡県 3,537,000円 佐賀県 3,700,000円 長崎県 3,634,000円 熊本県 3,497,000円 大分県 3,983,000円 宮崎県 3,492,000円 鹿児島県 3,494,000円 沖縄県 3,269,000円
出典:賃金構造基本統計調査(令和3年)
平均年収が最も高いのは東京都で448万円、そして最も低いのは島根県の307万円。比較すると140万円程度の差があることが分かります。
保育士の平均年収にこのように差がある理由は、都道府県ごとに給与水準が異なるためです。そのため都市部では年収が高くなる傾向にあります。また保育士は、厚生労働省の分類において「第2種社会福祉事業」に位置付けられているため、市町村の施策によってもお給料や手当などが異なる場合があります。
では都市部で働いた方が良いのではないか。地方だとデメリットしかないのではないかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、どちらにもメリットはあります。
都市部で保育士として働く場合、自動待機問題などで保育士の需要が高まっており、社宅として住居を提供したり、引越し費用を負担してくれたりするなどの好条件で保育士を獲得する動きが近年、活発になってきています。家賃補助や福利厚生など手厚い保育園が増えてきており、そこに魅力を感じる方も増えています。
地方で保育士として働く場合、通勤ラッシュを回避でき、広い敷地内のゆったりとした空間で伸び伸びと保育の仕事を行うことができます。またベテラン保育士さんがいらっしゃることも多く、派閥などがあまりなく聞きやすくアットホームな雰囲気の保育園が多いため、地方で就職を探される方も多くいらっしゃいます。
年齢別の保育士の平均給料
保育士の年収は20代、30代と徐々に上昇し、50代前半がMAX。そしてそこからはまた少しずつ下がっていく傾向にあります。
保育士(男女) 平均給与額 年間賞与など 全国保育士 平均年収 20代前半 221,400円 468,300円 3,125,100円 20代後半 242900円 710,800円 3,625,600円 30代前半 254,800円 744,600円 3,802,200円 30代後半 268,800円 838,600円 4,064,200円 40代前半 264,700円 807,300円 3,983,700円 40代後半 279,700円 855,300円 4,211,700円 50代前半 283,500円 941,300円 4,343,300円 50代後半 275,500円 876,700円 4,182,700円
出典:賃金構造基本統計調査(令和3年)
20代後半〜30代で主任など役職につく保育士の方が多く、40代では園長先生などになる方もいるようです。今までは20代で正社員を退職し保育の現場からは離れるケースも多く、30代以降の保育士人数は少ない傾向にありました。
しかし近年では正社員として働くだけではなく、派遣保育士やアルバイトなど様々な雇用形態で保育士として働ける道が広がっています。60歳以上の保育士の人数は増加傾向にあるので、今後も平均年収は変化していくのではないでしょうか?
保育士の役職ごとの平均給料
保育士ももちろん、役職によってお給料が変化します。保育園の主な役職は園長と主任保育士、そして一般保育士の3つです。
役職が上がるごとに仕事量と責任が増えるため、お給料も変化します。
私立保育所 平均給与(賞与込み) 平均年収(賞与込み) 園長 565,895円 6,790,740円 主任保育士 422,966円 5,075,592円 一般保育士 301,823円 3,621,876円
出典:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果
園長の仕事は運営や経営面での各種やりとりや保護者対応、そして保育の最終判断や最終決定など多岐にわたり保育園を安全で快適な場所へと守りながらも進み続けていかなければならない必要不可欠な存在です。
また主任保育士は園長の補佐役として保育園の運営面で園長をサポートしながら、現場の一般保育士の指導やまとめ役として動く大切な存在と言えます。
公立保育園と私立保育園での給料の違い
保育士として働く際、公立保育士と私立保育士の2種類に分かれます。
公立保育士とは都道府県や市町村が管轄する保育施設で働く保育士のことを意味します。公立保育士になるためには、地方自治体が主催する保育士採用試験に合格する必要があります。合格すると、地方公務員となるため公務員保育士とも呼ばれることもあります。
私立保育士はNPO法人や株式会社、病院など自治体以外の団体が運営している保育所で働く保育士のこと全てを示します。
職種 公立 月収 私立 月収 園長 632,982円 565,895円 主任保育士 561,725円 422,966円 一般保育士 303,113円 301,823円
出典:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果
公務員である公立保育士のほうが、私立保育士よりも年収が高いことが分かります。公立保育士も私立保育士も業務に差はほとんどありませんが施設によって、保育の方針が違います。公立保育士は公務員なので保育園の異動が定期的にありますが、私立保育園は基本的にはありません。
認定こども園の平均給料
近年、認定こども園の数が増加しています。認定こども園とは保育園の要素(保育)と幼稚園の要素(教育)を両方兼ね備えている施設のことです。0歳から小学校就学前までの子どもが、保護者が働いているいない関係なしに通うことができ、保育園のように長時間の預かりとなる施設のことです。
職種 公立 月収 私立 月収 園長 618,928円 556,400円 副園長 602,086円 462,597円 教頭 556,730円 395,512円 主幹保育教諭 514,214円 375,965円 指導保育教諭 455,717円 336,739円 保育教諭 287,181円 279,954円 助保育教諭 163,080円 235,921円
出典:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果
保育教諭は2015年の「子ども・子育て支援新制度」の開始および「認定子ども園法」の改正により新しく誕生した「幼保連携型認定こども園で保育にあたる職員」のことを言います。保育教諭となるためには、「保育士資格」と「幼稚園教諭免許状」の2つの資格を保有する必要があります。
認定こども園も施設によってタイプや方針は変わりますし、受け持つ子どもの年代などによっても仕事内容が違いますが、認定こども園でも公立であるほうがお給料は高いことが分かります。
経験年数による給料の違い
保育士の年収は、経験年数によっても昇給していきます。
0年 1~4年 5~9年 10~14年 15年〜 約264万円 約333万円 約357万円 約381万円 約438万円
経験年数が上がるにつれて徐々に増加していくことがよく分かります。経験年数が10年を超えると、新卒のころよりも100万円近く年収がアップしている状況です。
【給料が年々アップ?】保育士の処遇改善等加算とは?
保育士の給与を上げるために、処遇改善等加算Ⅰと処遇改善等加算Ⅱの制度が始まっています。施設の平均継続年数や園児数などによって加算率が変わる制度ですが、正社員やアルバイトなど関係なく、全ての職員が対象となるのが「処遇改善等加算Ⅰ」です。
処遇改善等加算Ⅰ
処遇改善等加算Ⅰは、3つの要素から成り立っています。
①基礎分
職員の平均勤続年数に応じて賃金に2〜12%上乗せされる金額分のことです。
②賃金改善要件分
賃金水準に対して改善をおこなった施設に限定で加算される金額分のことです。
③キャリアパス要件分
キャリアパス要件分は賃金改善要件分に含まれているもので、下記の項目などが満たされていた場合に加算される金額分です。
- 職員の役職や職務内容に応じた勤務条件の設定
- 計画に沿ったスキルアップやキャリアアップ研修会の実施など
処遇改善等加算Ⅱ
保育士向けの処遇改善等加算Ⅱは、若手や中堅保育士のキャリアアップを目的にした制度で、2017年より実施されています。約3年以上の保育士経験をもつ職員を対象としており、園長や主任以外にも新たな中堅の役職をおき、その役職を目指すキャリアアップ研修を修了し発令を受けることで、月額5,000円もしくは月額4万円の手当を受けることができます。
キャリアアップ研修の分野は全部で8分野です。
- 乳児保育
- 幼児保育
- 障害児保育
- 食育、アレルギー
- 保健衛生、安全対策
- 保健衛生、安全対策
- 保護者支援
- 保育実践
- マネジメント
①職務分野別リーダー
- 約3年以上の経験年数
- 1〜6の専門分野のうち、どれかの研修を修了
- 職務分野別リーダーとしての発令を受け、務めていること
この条件を満たすことで就任することができ、月額5000円の処遇改善の対象です。
②専門リーダー
- 約7年以上の経験年数
- 専門分野別リーダーを経験していること
- 4分野以上の専門研修の修了
- 専門リーダーとしての発令を受け、務めていること
これらの条件を満たすことで就任することができ、月額4万円の処遇改善の対象です。
キャリアアップを考えている人にとってメリットのある制度ですので、ぜひ活用してみましょう。詳しくは働いている保育園や、転職を考えている方は、転職エージェントに相談してみるのがおすすめです。
まとめ
保育士の給料は日本の平均給料と比べると低い傾向にあります。ですが近年は社会問題として政府や自治体などが、保育士のお給料を上げようと動いている姿が見られるようになりました。
保育士としての働き方も様々増えてきており、正社員や常勤だけではなく派遣社員やアルバイト・パートなど自分にあった働き方を選ぶことができます。また働く場所によってお給料の金額の差もありますが、どのような環境で働きたいか。保育方針など選択肢は多様です。
一概にお給料が良い保育園が働く上で良い保育園とは限りません。保育士としてどのようなキャリアを描きたいのか、スキルとして学びたいのか。どのような職場環境で働きたいのかを明確にした上で、ぜひ自分にあった働き方のできる保育園を見つけてくださいね。